こんばんはDJあおいです

読者さんからこんな相談をいただきましたよ










お悩み




あおいさん、初めまして。

私は、吃音を持っています。
吃音とは、吃ったりして流暢に話すことができない障害です。

例えば、私は自己紹介で自分の名前が言えません。苗字までは言えるのに、名前を言おうとした途端にいつも声が出なくなって、吃ります。

中途半端に誤魔化し方を習得したせいで、一見すると吃音だとは気付かれません。でも、心の中では必死に言えない言葉があったら代わりの言いやすい言葉を探したり、足踏みをして言いやすいタイミングをはかったりします。

みんなが簡単にお喋りしているとき、私はヘトヘトです。

それでも頑張ろう!と思える時ともう駄目だ!という時が交互に来て、この先の人生ずっとそうなのかなと思ったら絶望します。

文章の朗読が苦手で、生まれてから一度も吃らずに言えた試しがありません。学校でプレゼンがある日はたまに休んでしまいます。友達にサボりだと言われるけれど、誰かの陰口も噂も好きにペチャクチャ話せるあなたには分からないだろうね!と唾をかけたくなります。でも逃げてるのは自分だから、サボりに変わりはありません。

誰かに相談してもいっつも「気にならないよ」「気にしないで」と言われるのがお決まりです。親に相談すると、親が病んでしまうのでもう言えません。

吃音の辛さと共存しながら生きていく方法は、ありますか?

あおいさんのブログをいつも拝見していて、あおいさんならこんな相談にも何か答えをくれるかもしれないと思ってメールを送ってしまいました。






















オアシスのノエル・ギャラガー、ブルースギタリストのBBキング、そしてエド・シーラン
もっと有名どころで言えばマリリンモンローも吃音に悩まされたそうですね

頭の回転が速すぎて口が着いていけない
言語能力が発達し過ぎたゆえの天才症
そんな説もあるのですが、なにせ100人にひとりの割合で吃音症を持った人がいるわけで
私の周りだけでも吃音症の人は結構な割合でいるのです

その人たちはべつに天才という特異な存在でもなく
天然な人もいれば、真面目な人もいて、努力家もいれば、すぐに投げ出しがちな人もいて
吃音症と吃音症でない人を安易に分ける線引きはできない
私たちと同じ種の、一長一短のある、平々凡々とした、どうしようもないほど普通な、人間そのものにカテゴライズされる
少なくとも私はそんな印象を持っています



静岡という地方都市で生まれ育ち、青春の殆どの時間を静岡で過ごしました
静岡に方言があることは認知していましたが、方言なんてお年寄りが使うもので、私たち若者文化には関係のないこと、若者の言語は標準語だと信じて疑いませんでした
進学で上京して、様々な人とコミュニケーションを重ねる中、私の発した言葉に周りがクスクスと笑う
『訛っているよ、イントネーションがおかしい』と草を生やされるまでは

それから何が標準で何が訛りなのかもわからなくなり、できるだけ言葉少なくコミュニケーションを取るようになりました
その結果、同調することしかできなくなり(異論は高度なコミュニケーションになってしまうため)しばらくの間、人間関係に窮屈な思いを感じていた記憶があります
言いたいことが言えないもどかしさ、蓄積されていく承認欲求、感情が喉に詰まったような、喉元に大きな異物があるような、そんな禍々しい感覚
『訛り』と『吃り』は違うのかもしれませんが、あのとき感じた屈辱の濃度を何倍にもした苦しみが、私の中で想像されます



大学在学中、自分の語学能力を試してみたいという安易な発想で、ロンドンへ一人旅をしたことがあります
『アビーロードの横断歩道で写真を撮りたい』という不純な動機が80パーセントでしたが、それを隠し正当な理由で親に頼み込み、夏休みを利用して一週間という小旅行をしました
結果は散々たる有様、自分の語学など出川イングリッシュに等しく、売店で水も買えない始末
マックでハンバーガーを注文すればリッターサイズのコーラを三つ渡されたり、タクシーに乗れば全く違うホテルに連れて行かれたり、もう初日からホームシック全開でした
自分の思いを言葉にして伝えることのできない葛藤、上京したばかりの頃のあの喉の詰まり、それが蘇る思い出になりました



今は物書きをしていますが『言葉に詰まる』という感覚は、普段のコミュニケーションより強く感じることがあります
今こうしてカタカタとタイピングしながらも、伝えたいことの50パーセントも表現できていない
もっと自分の中にある思いを適切に表現する言葉があるんじゃないか、もっと簡潔に、もっとストレートに表現できる言葉があるんじゃないか
さすがに『喉が詰まる』という感覚ではないのですが『頭が詰まる』という感じ
あの頃、喉を詰まらせていた異物が脳に移動してきたのでしょう
言葉を乗せ忘れたうっかり者の感情が、行き場もわからず体内を徘徊する
そんな、上手く出力できないもどかしさはいまだに健在です



数年前、ボケっとテレビを眺めていました
まだ西田敏行さんが局長を務めていた頃の探偵ナイトスクープ
その名物企画『通天閣の上から叫ぶ』
道行く人に日頃の鬱憤を通天閣の上から叫んでもらおうというコーナー
時にはバカバカしく、時には哀しく
笑いと感動がある、私も大好きなその『通天閣の上から叫ぶ』が放送されていました

探偵であるスリムクラブの真栄田さんが一人の少年に話しかけます
人気芸能人に話しかけられたからなのか、少年は感極まったように身悶えます
『すごい感情表現豊かだな』と真栄田さんは言いますが、少年ははにかんだまま何も言いません
少し困惑する真栄田さんを助けるように、少年に付き添っていたお母さんが申し訳なさそうにこう言います
『吃音があって、感情が高まると声が出にくくなるんです』
少年はその言葉に気後れしたのでしょうか、自虐的な悲しい笑みを浮かべ
『いつも、こうなっちゃう』と詰まりながら辿々しく言葉を吐き出しました

真栄田さんはその言葉に何かを感じ取ったのか
『辛いか?』と少年に尋ねます
先程までの自分をごまかす自虐的な笑みは少年から消え
『辛いです、とても、辛いです』と少年は本心を嗚咽するように答えました
『じゃあ、叫んでみるか?』と真栄田さんは少年に尋ねます
その問いを受け、少年は真栄田さんにこう尋ねます
『吃音だけど、いいですか?』と、ほんの少し、覚悟を決めた表情で
その覚悟を決めた少年の顔に応えるように、一拍おいて真栄田さんはこう言いました
『当たり前だろ、行こうぜ、関係ないよ』
少年の肩を抱き、積年であろうその劣等感に寄り添い、舞台である通天閣に連れて行きました

通天閣から眼下に大阪を見下ろし、少年は意を決して叫びます
『僕は、昔から、吃音で、声が、とても、出にくいです、そのせいで、周りから、バカにされます、だから、これだけは、言いたいです、吃音の辛さを知ってください、そして、僕と同じ、吃音症のみなさん、頑張りましょう』
少年は一語一語、大きく息継ぎをして、思いの丈を見事に叫びました
私にはその叫びが、言語を越えた感情に思えました
今まで喉に詰まっていたものが一気に解放されたような
そんな爽快感さえ共有できたのです

同情でもなく、憐れみでもなく、同じような痛みを持つ者として、少年に自分を投影し
気付けば相方がドン引くほど、私は目から大粒の小さな海を垂れ流していました

後に『神回』と言われるほど、ネットでも反響の大きかった回
その要因は『共感』でした
吃音症ではない人たちにも、少年の抱える痛みにはどこか身に覚えのあるような
私で言えば、いつかの訛りのコンプレックスや、ロンドンでの黒歴史、そして日々表現の限界と戦う劣等感
形は違えど、痛みは同じ、私には少年が『同士』として見えました
少年の叫んだ感情は、私たち劣等感の代弁でもあったのです



私はあなたの吃音を治してあげることはできない
それこそ『がんばれ』とか、『気にすんな』とか、月並みな慰めしかできない
悲しくなるほど、私は無力です

でも、同じような痛みを共有して、共に生きていくことはできる
助け合えなくても、分かり合える存在だということは、決して忘れないで欲しい
あなたの抱える痛みは、私の中にもある
私の中にある痛みも、あなたの中にあるのかもしれない

吃音症である人と吃音症でない人を、あなた自身が隔てないように
私たちは同士であると思っていただければ幸いです

お互いに劣等感を克服することは並大抵な努力ではないとは思いますが
もしよければ、私たちと一緒に、もう少しだけ、頑張ってくれませんか?

あなたが頑張れば、私たちの励みになる
そして私たちの頑張りを、あなたの励みにして欲しい
それこそ、つまずきながらでもいい
私たちもよく、つまずくから
同じ不器用な人間同士、取り止めのない人生を、それでも繋いでいきましょう
もちろん、たまには愚痴でも言い合いながらね






※追記
相談者様から返信が届いたので追記しておきます

『私なら』と考えてみると、とても勇気のいる告白だったと想像できます
本来なら手を差し伸べてあげなければならない立場なのですが
不覚にも、私はあなたの勇気に救われた気がします
私だけではなく、多くの読者様もきっと同じような気持ちで、あなたの勇気に背中を押され、劣等感に立ち向かう活力を頂いたのではないでしょうか
改めて、この度は勇気を出してくれたこと、本当に本当にありがとうございました


返信



DJあおいさん

以前、吃音症についての相談メールを送った者です。お礼を伝えたかったのですが、どこへメッセージを送ったらいいか分からなかったので、相談用のメールアドレスに送ります。

まずは、本当にありがとうございます。
答えづらい内容でしたし、何よりも、ひとつの障害に対して不特定多数が見ている場に自分の意見を晒すのはあおいさんのリスクが高すぎるし、勇気がいるものだったかと思います。すみません。それでも答えていただいて、ありがとうございます。

あおいさんの文章を読んで、涙が止まりませんでした。何度も繰り返し読みました。

非吃音者の人に、吃音のことは分かるはずないとずっと思っていました。吃りを隠しきれなくて仕方なくカミングアウトしたとき、「私もそういうときあるよ」という言葉を聞いて、そんなわけない、といつも悔しく感じていました。

でもあおいさんの文章を読んで、その言葉をくれた人は、分かり合おうとしてくれていたのではないかと思いました。「気にしないで」という言葉も、沢山思考を巡らせてかけてくれた言葉だったのかもしれない。吃音に囚われすぎて、当事者以外の誰ともこの悩みは共有できるはずがないと思い込んでしまっていました。
あおいさんの文章が、私が周りにしてしまっていた沢山の誤解を解いてくださったような気がします。

今回、あおいさんや、吃音症の記事ツイートに引用RTやリプライをしている沢山の人達の言葉を読んで、こんなにも同士がいるんだと知りました。
あおいさんや、みなさんと一緒に頑張りたいです。
そして私も、苦しんでいる人がいたら、あおいさんのように優しさをあげられるような人になりたいです。

相談に答えてくださって、本当に本当にありがとうございました。



















以上
DJあおいでした



お知らせです

ブログ用Q&Aの相談窓口となるメールアドレスはこちらです


djaoi.otewohaishaku@gmail.com


お気軽にメールしてくださいね























お仕事の依頼はこちらまで
mrnmtzk3159@gmail.com














女の人間関係はめんどうなのよ 人付き合いの処方箋
DJあおい
KADOKAWA
2018-03-24
重版出来!絶賛発売中!



想いよ、逝きなさい
DJあおい
幻冬舎
2017-09-21
絶賛発売中!







『じゃあ言うけど』シリーズ最新作!




50000部突破の処女作!




男と女の違いを紐解く一冊
重版決定!




美女の教科書『DJあおいの恋の悪知恵』
絶賛発売中!

DJあおいの恋の悪知恵
DJあおい
KADOKAWA/メディアファクトリー
2016-02-19




こちらも絶好調発売中!




『DJあおいの恋愛指南塾』連載中


















クリックにご協力お願いします