娘の病名は急性白血病
大きく分けて三つのステージがある
ひとつは標準危険群
ひとつは中間危険群
そしてもうひとつは高危険群 

目覚ましい医療の発達により
標準危険群と中間危険群の寛解率は7割から8割と言われている
白血病がもはや治らない病気ではないと言われる所以である

娘は中間危険群と言われた
まだ詳しい結果は出ていないけど
ほぼ中間危険群で間違いないと言われていた

中間危険群の寛解率は約7割と高い水準にあるけど
だからと言って親は『ヘーキヘーキwヨユーヨユーw』とはならない
7割という高い確率であってもそれは蜘蛛の糸のように頼りない希望だ

その蜘蛛の糸のような頼りない希望を必死で掴み
毎日不安と戦っている
不安と恐怖心という液体が
ゆで卵の薄皮のようなもので
なんとか人の形を形成しているような状態
ちょっと触れただけで薄皮が破裂して
不安と恐怖が溢れ出しそう
毎日がギリギリである




今日検査の詳細が出た
私は中間危険群だと思っていた
結果は『高危険群』だった




以前、ドクターは標準危険群と中間危険群の寛解率を
はっきりと数字で示してくれた
『治りますよね?』という問いにも
『治ります』とはっきり答えてくれた

でも高危険群と結果が出た今
寛解率は教えてくれなかった
私も怖くて聞けなかった
それでも勇気のありったけを出して『治りますよね?』と聞いてみた
ドクターは『必ず治るとは言い切れない』と答えただけだった

私が掴んでいた蜘蛛の糸は途切れてしまった
もちろん希望がなくなったわけではないけども
どん底だと思っていた今がどん底ではなかったこと
私がどん底だと思っていた場所からさらに深い場所に突き落とされてしまったこと
なによりも代わってあげられないことが悔しくて悔しくて気が狂いそう
娘が元気になるためなら右腕だって差し出すのに
娘が元気になるためなら命だって差し出すのに
そんなことをしても娘は救われない
自分の無力さが恨めしい
『人生で最も辛い日ランキング』がまたしても更新されてしまった




娘が待つ病室に戻るためには
まず泣き顔をなんとかしなければならない
泣いてる顔を見せて更なる不安を与えたくない
せめて今まで通りの自分で接しなければ

私は病棟入り口のエレベーター前で
外を眺めながら涙を沈めようと必死だった

運がいいのか悪いのか
ちょうどその入り口で
退院する子供と鉢合わせてしまった
ナースさんやドクターに囲まれて
『退院おめでとう!』と祝福される家族
満面の笑みで花束を受け取る子供
嬉し涙を流してナースさんやドクターにお礼を言う父母

本来それは祝福すべきことなんだろう
でも、私にはそれが地獄だった
たまらず非常階段に駆け込み
ゲロが出るほど気が狂ったように号泣してしまった





病室へ戻る
今日の娘は抗がん剤の副作用も収まり終始ご機嫌
『本当に病気なの?』と疑いたくなるほど明るく
友達のこと、退院したらやりたいこと、将来の夢、好きなアニメの話、好きなユーチューバーの話
たくさんたくさんお話しをしてくれた

そして最近ハマっているのがお昼寝
狭いシングルベットに二人寝そべり
背中をくっつけて昼寝をするのが気持ちいいのだとか

最近では年頃なのか一緒に寝ることもなくなり
親としては若干寂しかったところ
このお昼寝タイムは親にとってもご褒美のようなものだ

娘と背中をくっつけて横になる
背中があたたかい
それは命のあたたかさのようにも感じた
気持ち良さそうな寝息がスースーと聞こえる
こんなに『命』を感じたことは今までになかった
こんなに『幸せ』を感じたことは今までになかった






娘、代わってあげられなくてごめん
この埋め合わせは一生を掛けて償っていくから
なんとか、なんとか
10年後も20年後も30年後も
生きてくれないかなぁ